
駄文集
たられば物語
其処には瑠璃色の海と澄んだ空気が視界を満たすばかりで、特筆すべきものは何も無かった。寒い空を翔ぶ鳥類は其の様な事を微塵も感じさせず、はっきりとした指針か目標、或いは標的が居るかの如く弧を描きながら向かって上下運動を楽しんでいる様で、彼等を阻むものは何も無かった。
此の様な無い無い尽くしの世界にも当然の如く在るものは在る。例えば、其れや此れを観測する私。例えば、其れや此れに観測される私。言ってしまえば其れは私しか居ない事に成ってしまうのだが、事実とは抗う事の出来ない程の権力者である。其の絶対的な権力を有する世界の王者様は特に何もしない。只只唯一無二の絶対的な権力を常に行使し、振舞い、気取らせる。結果として知的生命体は其の抗えない力を感じ、気後れし、屈服するしかない。否、其れ以外の選択肢を用意されて居ない。選べず迷えず従順に従い屈託なく屈服する。さりとて其の様な事象を意識するのは私くらいに暗い考え方をする者くらいだろう。一般的ではない。其れくらい暗い私も自覚くらいはある。
其れでも私は少し前迄は明るい考え方をする明るい人格者であった。しかしてだからといって何か劇的な事情に逢って劇的にベクトルの反対側へと変革を遂げた訳では無い。理由や要因と言えるものは特に無く、されど強いて挙げるならば其れは人間的な成長と呼ぶ他無い。此処で言うところの人間的成長とは背丈の伸びや性器の発達等の物理的成長をも含む極々一般的で普遍的な普通の成長を指す。