駄文集


エピローグ――後日談――

十二月六日(金)正午――走狗堂――
「あれ……マットは?」
 走狗堂につき、いつもの席に座ろうとする桐栖は、既にいたマリーとイリアに訊ねる。
 その隣で、チャールズが「初めまして」と自己紹介をしているが、誰も聞いていない。
 マリーはチャールズよりも、一緒に来たナターシャに過剰反応していた。
 ……世界一の武器商会の会長をここまで無視できるマリーは凄いな。
 桐栖はそう思うが、イリアもチャールズに反応せずに返答する。
「ずっとじっかっかー」
「あら、そう言えば最近見ませんわね」  
「なんで気付かない」
 ナターシャがここ四日間ほどマットがいないことに気付かなかったマリーに突っ込む。
「……それより、こちらの愛らしい東洋の子は?」
 しかしマリーは、マットより桐栖達と一緒に来ていた真百合の方が重要らしい。
「椙本真百合です」
 よろしくお願い致します、と真百合は深々とマリーに一礼する。
「まあっ!!まあまあっ!!!」
 もう既に興奮状態のマリーに、彼女の視界の外から征爾が飛び出てくる。
「椙本征爾だっ!真百合の兄だっ!!」
 それに続いて、チャールズも控えめに「チャールズ・ハドンです」と名乗るが、マリーの反応は冷ややかだ。
「あらそう……真百合さんっ!こちらで一緒にお茶しましょう!」
 ……きっとハドン商会のことを知らないんだろうな。
 と桐栖は、馬鹿なマリーならあり得そうな一般常識の欠落について無理矢理納得しようとして、それをチャールズにも説明した。
 そんな二人を置いて、マリーと真百合の会話は続く。
「……はい」
「大丈夫だよ、マリーも別に食べやしないから」
 桐栖に保証され、真百合はマリーの隣(いつもであればマットが座っている席)に座る。
 しかし、真百合の危険を察知したのか、征爾がその間に無理矢理座ろうと椅子を置こうとしている。
「……征爾。大丈夫だから」
「お前の言葉など信用出来んっ!」
「征爾、大人しくしないと真百合に嫌われる」
「っ!!!……ふん、ここは座りにくそうだ。別のところにしよう」
 ナターシャの冷静な分析(?)を聞き入れ、征爾は真百合の反対側に座った。
 それを見て、イリアの隣に桐栖が座り、その隣にナターシャが腰をかける。
 何故かナターシャが勝ち誇った顔で真百合を見て、真百合は悔しそうな顔をしているが、それを無視して桐栖は話す。
「こちら、チャールズ・ハドン……苗字から分かると思うけど、ハドン商会の人ね」
 敢えて、彼が会長であることは言わずに、桐栖はチャールズを紹介する。
「真百合さんは可愛らしいですわねぇ~」
 だが、紹介している相手であるマリーの態度は変わらない。
「はー……まあ良いか」
「桐栖っ!?きちんと俺を紹介してくれよっ!」
「マリーには無理だ、諦めよう」
「ええっ!?」
「マリーは女の子の名前しか記憶できない障害を持ってる」
 ナターシャも桐栖を援護するように的確ではあるが、正確ではない誤情報を伝える。
「どんな障害だよっ!!」
 しかし、そんなチャールズの突っ込みにも、ナターシャが「こんな障害」とマリーを指さしてみせると、チャールズも何となく察した。
「……ああ、もう良いや」
「でしょ?」
「うん。何となく、ここにいるメンバーの異様性に気付いた」
「私は普通ですっ!」
「ああ、うんうん。ミス椙本は普通ですね」
 もう、右から左へと会話を流す機械と化したチャールズは、そんな風に、この場の不思議な雰囲気に身を任せることにした。
 そうすると不思議なことに、普通に会話の出来る人が桐栖以外にもう一人増えた。
「み、みんな、ひ、久しぶり」
「マット!」
 桐栖はマットを歓迎すると、チャールズを紹介した。
 すぐに察しの良いマットは、彼がハドン商会の会長かそれに連なる血筋の者だと判断し、緊張しつつも挨拶をする。
「ど、どどど、どうも、ま、ままマフユー、かかかカンブリアですっ!」
「そんなに緊張しないでください、チャールズ・ハドンです。よろしくお願いします」
 チャールズは、マットの緊張をほぐそうと、自身をチャズと呼んで欲しい旨を伝えるが、マットは「むむ無理無理無理無理っ!」と返答した。
「ぼくもそう呼ばせてもらってるから、気にしなくて良いよ」
「き、桐栖もっ!?」
 なにを驚いているのか分からないが、とにかくマットは動揺しているようだ。
 それを見ていたナターシャに、ちょっとした悪戯心が芽生える。
「マットもそう呼ばせてもらってる」
「ま、マットもっ!?」
 ……マット動揺してるなー。
 桐栖はそう理解して、マットにとりあえず落ち着くように着席を促す。
 そして桐栖が、マリーが構っている(構いまくっている)真百合や、その隣にいる征爾の紹介をしたところで、マットはある程度落ち着いてきた。
「な、なんか、お、大所帯になっちゃったね」
「そうだね……あ、そう言えば、マットは実家の件は解決した?」
 まあ、解決したからここにいるのだろうと桐栖は思ったが、その詳細をマットから聞こうと思い、話を振った。
「う、うん」
 そう言って、マットは月曜から今日までなにがあったのかを桐栖達に伝える。
 まずはアロンがテイラー家でしていたことをポピィの父に伝え、それを機にテイラー家が危うくなりそうになったが、それをマットが父親との間を取り持つことで解決したこと。
 そして、マットが父親との間を取り持てるように、祖父母が助力してくれたこと。
「あっ、そ、そう言えば、そ、その時は桐栖の魔術道具(これ)が役に立ったんだ」
 そう言って、マットは吸魔刀(ヴァンパイア)を懐から取り出して、桐栖に返却する。
 戦闘もなかったのに吸魔刀(ヴァンパイア)が役に立つとは思えず、ナターシャは訊いた。
「なんで?」
「こ、これのお陰で、え、生力が低くても魔術が使えると父さんを納得させられたんだよ」
 少し興奮気味にマットはそう言うのを聞いて、ナターシャは納得する。
 元々、桐栖が扱う魔術道具のほとんどは、生力が低い自身の為に作られたものだからだ。
 だから、生力の高い低いはあまり関係なく使える。
 寧ろ、ものによっては生力が高いと壊れてしまうものもあるくらいだった。
 それを見て、生力の高さに固執していたマットの父は自信の認識を改めたらしい。
 ちなみに、その時に「ならばそれを使って私を倒して見せろ」と父に言われ、親子喧嘩にも似た戦闘があったのをマットは、桐栖達には伝えたなかった。
 それは、その戦闘でマットはアロンの時とは違い、殺意や危機感は感じなかったし、寧ろ、不器用な父の愛情のようなものを感じたからだった。
 そんな私的(プライベート)なことは、恥ずかしくて言えなかった。
 けれど、父親のことを嬉々として話すマットを見て、桐栖達はそれに似たようなことがあったのだな、と想像していた。
「そ、それで、こ、婚約は解消。お、俺は大学卒業までは自由にして良いって!」
「良かった」
 まるで自分のことのように、桐栖もナターシャもそう言ってくれたので、マットは見落としていたが、真百合には見えていた。
 自身を構うふりをして、マットの話しに聞き耳を立て、最後には桐栖達と同じように、小さく「頑張ったんですのね」と言っていたマリーの眼が本当に安心するように潤んでいたのを。
「そ、それよりも、お、黄金の暁会の件はどうなったの?」
 恥ずかしいのか、マットは自分の話は終わったと言って、話題を変える。
「あー、それはね……」
 桐栖は一瞬だけ、チャールズに視線を向けて確認する。
 それに対し、チャールズは笑顔で頷いたので、桐栖は続ける。
「実は、マットが戦っていた時にぼく達もマットの実家に向かっていてね」
「えっ!そ、そうだったの?」
「うん。まあ、ショーンから連絡があって、イリアが確保したって聞いて、すぐに倫敦に戻ったんだけどね」
 近くまでは行ってたんだ、と桐栖はマットに教える。
「そ、それなら家に寄ってくれても良かったのに」
「でも、こっちも色々と仕事があってね」
 ハドン商会内の不穏分子の掃討はアロンがやってくれたが、桐栖は黄金の暁会の調査を、新たに軍とハドン商会(チヤールズ)から依頼されていた。
 その調査も含めて、カンブリア家邸宅まで向かったが、先に行っていた介次郎がカルマン卿と接触し、アレイスター・クロウリーが日本の魔学技術を狙っているという情報が入ったので、すぐに倫敦へと引き返すことになったのだ。
 そこら辺の説明は、ある程度ぼかして桐栖は教えているが、彼がマット達に伝えていないことをチャールズは思い返していた。
 
十二月三日(火)深夜――ワッピング・ハイストリート、とある倉庫――
「良くここが分かりましたね」
 倉庫の中に桐栖とチャールズが入ると、暗い空倉庫の奥にぽつんと置いてある椅子に座った影がそう言った。
 この倉庫は、枩本商会が所有する倉庫の一つで、以前、ハドン商会の商人に物資を奪われた場所でもある。
 なので、何故ここが分かったか、というアレイスターの問いよりはどうやってここに入った、という風に桐栖が問うのが状況的には正しい。
 だが、この倉庫は物資が奪われてから使用していない。故に、鍵も一般的な錠前しかかけていないので、入ること自体は難しくない。
 それに、桐栖達がここにいる理由は簡単だった。
 アレイスターは日本の魔学技術を狙っている、そして櫻本紹介の技術顧問として日本に赴任している。これらの事実を踏まえ、彼の現在の所在を東郷平八郎(にほんぐん)経由で櫻本商会に問い合わせたところ、彼は櫻本商会の商船で帰国しているとの解が帰ってきた。
 そしてその商船は、テムズ川の桐栖が管理する倉庫の一つに付けられていた。
「アレイスター・クロウリー、ですね」
 だから、桐栖は質問には答えず、そう影に訊ねた。
 影は頷いて、立ち上がる。
「ええ、ぼくがアレイスター・クロウリーです」
 倉庫の窓から差す月明かりの下に、その白髪の白子(アルビノ)は現れ、そう言った。
「貴様の目的は何だ?」
「……部外者がいますね」
 チャールズの問いにアレイスターは応えず、鬱陶しそうにそう言って、チャールズに指を一本、向ける。
「ぐはっ!!」
 即座にチャールズは地面にねじ伏せられ、苦痛の表情を浮かべている。
「やめろっ!」
「ぼくは貴男と語り合いたいのです。枩本桐栖君」
 桐栖の制止を聞かずに、彼は自身が帰国した理由を言う。
 しかし、それに対して桐栖はなにも出来ない。
 アレイスターは指を差しただけで、見えない力でチャールズを抑え込んだのだ。
 有無を言わさず、圧倒的な魔術(ちから)で。
 そして魔学にかなり精通している桐栖でさえ、その魔術理論が読めなかった。
 属性?魔術陣?なにも分からない。
 だから、チャールズを解放することも出来ず、桐栖は否応なく会話することを余儀なくされた。勿論、解放する手段を考える時間を捻出する為に。
「ぼくと何について語り合いたいのですか?」
「貴男が作った魔術道具、報告は受けていますよ」
 微妙にかみ合っていない。
「良く魔学を理解している」
「お褒め頂き、ありがとうございます」
「貴男の、その才能が欲しい」
「ぼくの開発したい道具が欲しいのでしたら――」
「違います。貴男のその頭脳が欲しいのです」
 その今もぼくの術を無効化する方法を考察している貴男の類い稀な頭脳が、とアレイスターは続け、桐栖は驚く。
 会話中には悟られないように視線に気を配り、手の位置や喋り方にも気を遣っていた。
 なのに、彼は桐栖の思考を読んだように考えを言い当てた。
「驚くことはありません。……それと」
 それとぼくの術は上位要素は使っていませんよ、とアレイスターは続ける。
 どの四大元素も当て嵌まらないように思えた桐栖は、ちょうどその時、上位要素である可能性を考慮していた。
「……闇の属性ですか」
「勘で言っては、いけませんね」
 諭すように、アレイスターは桐栖の発言が勘であることを指摘する。
 実際に、四大要素内の一つなのであれば、闇以外にはあり得なかった。
 他の三つの属性なら、何らかのかたちで目に見えるはずだ。
 と、そこまで思考して桐栖は別の考え行き着く。
「分かりましたね。流石です」
 見透かしたように言うアレイスターを無視して、桐栖は懐から筆を取り出し、床に魔術陣を描き始める。
 それをアレイスターは止めるでもなく、まるで楽しむように観察している。
「はあっ!」
 魔術陣を描き終えた桐栖は、すぐに生力を込める。
 途端、チャールズは自身の身体軽くなったのを感じた。
「あ、ありがとう、桐栖」
 チャールズはそう言うが、桐栖が描いた魔術陣を見て驚いた。
 それには、土の属性を指す式が描かれていた。
 ……この見えない力が、土?
 腑に落ちないといった顔をしているチャールズに、桐栖はぼそっと教える。
「重力だ」
「っ!」
 そして、何事もなかったかのようにアレイスターは桐栖だけを見てぱしぱしと手を叩く。
「おめでとうございますっ!」
「これくらいなら誰でも出来ます」
「出来ないんですよ。これが」
 アレイスターは謙遜する桐栖(本人は本当にそう思っているが)を否定する。
「論理的に考え、既知を応用すれば誰でも出来ることは、何故か出来ない人が多いのです」
 嘆かわしい、とでも言うようにアレイスターはそう言った。
 そして、それを否定しようとする桐栖を制し、更に続ける。
「出来ない人は応用が出来ない。応用が出来ない人は理解力が乏しい」
「それはっ――」
「そして結局は自分には理解できないと諦めてしまいます」
 ほらよく聞くでしょう『分からない』と、そうアレイスターは言うが、チャールズにも桐栖にもそれこそ意味が『分からなかった』。
「『分からない』という言葉は『理解できない』とは違います。『理解する気がない』または『理解することを諦めた』という意味で使われています」
 そのままアレイスターは続ける。
「『分からない』という人間には、大抵何を教えても覚えません」
 それは彼らが理解することを放棄しているからです、とも彼は言う。
 その発言に、チャールズは一理あると思ってしまった。
 確かに何度仕事を教えても失敗(ミス)をする種類(タイプ)の人間はいる。
 それを、多くの従業員を抱えるチャールズは見てきた。
 そういった人物たちは確かに、『分からない』と良く言っていた。
 だが、抱える従業員数の違いか、それとも考え方の違いか、桐栖は反論する。
「人の理解力に差が出るのは当然です」
 それは筋力や聴力といった身体能力と同じだ、と桐栖は続ける。
「そういう見方も……確かに、出来ますね」
「貴男は理解力や分からないという人物に関して言葉を抽象化し、枠で捉えているようにしか、ぼくには見えない」
「ぼくは個人を見ていない、と?」
「ええ」
「では、何故ぼくは貴男を欲している?」
「人間をAという枠組みで捉え、そのAに適応されない人間を更にBやCといった枠組みで捉え、その欲しいという枠組みにぼくがいるからでしょう」
「ふふふ。面白い考え方ですね」
「違いますか?」
「いえ、違わないでしょう。ぼくは人間という枠組みが内包する者が大好きです」
 ですが、とアレイスターは声を低くして続ける。
「ですが、全員の人間は救えない……だから、救う人間を選定しなくてはならない」
 桐栖とチャールズは疑問符を浮かべる。
 別に人類は危機に瀕していないし、救われる謂われも選定される必要もない。
「人類を救うには、人類はもっと成長しなくてはならない」
「それは進歩を促すということですか?」
 辛うじて理解できた部分を、桐栖は訊ねる。
「進歩、進化、成長、前進、改新、革命、変化、変革、変態、繁栄、どの言葉でも別に差異はありません。要はより良く変わる必要があるのです」
「そんなこと、人類は望んでいないっ!」
「それを貴男が言いますか、ハドン商会長」
「ぐっ」
 人類が求めていないのであれば、英国民も繁栄など求めていないのかも知れなくなる。
 痛いところを突かれたチャールズは黙ってしまう。
「それを貴男が行う理由は何ですか?」
「私が行う理由は先ほど言った通りですよ」
 ……人間が好きだから、か。
 桐栖は理解するが、納得は出来ない。
 好意を持たれたからといって、自身が認めてもいない人に良かれ良かれと様々な面倒を見られるのは正直鬱陶しい。
 度が過ぎた父権主義(パターナリズム)はお節介どころでは済まされない。
 だから、桐栖はアレイスターをはっきりと否定する。
「ぼくに貴男は必要ありませんし、貴男の手伝いをする気もありません」
 それに、と桐栖は笑顔で続けた。
「ぼくが好きなのは全人類ではなく、ぼくの周りにいる人達だけですから」
「……」
 アレイスターは驚いた顔を一瞬だけ見せて、すぐに哀れむような顔をした。
「そうですか、まだ貴男に会うのは早すぎたようですね」
 そう残念そうに言って、アレイスターは指を鳴らすと風が起こった。
「……ああ、最後に一つだけ」
 そう姿を消しながら彼は言った。
「一九一四年の七月までに考えを変えてください」
 お願いします、と山彦のように小声で言ったのを最後に、風の音しか聞こえなくなった。
 そして、風が収まった頃にはもう、アレイスターの姿はなくなっていた。
 一九一四年の七月という中途半端な期日だけを彼らの思考の片隅に置いて。
 
十二月六日(金)正午――走狗堂――
「チャズも止めてくれよっ!」
「えっ?」
 アレイスターとのことを思い出していたチャールズは、桐栖の声で現実に引き戻される。
「ナターシャと真百合がいがみ合いを止めないんだっ!」
「えっ、ああ」
 その説明がなくとも、チャールズは目前で繰り広げられている言い合いが見て取れた。
「私は桐栖兄様の妹ですっ!」
「桐栖の補佐、私の勝ち」
「勝ってませんっ!」
「ああ~、お二人とも私の為に争わないでくださいまし~」
「ま、マリー、ふ、二人とも君のことなんて眼中にないよ」
「真百合ー!!お兄ちゃんはここにいるぞー!!!」
「おっにーちゃっんー?」
「イリア、君にお兄ちゃんはいないでしょ」
「んっじゃー、きっりっすーなってー」
「えっ?」
「い、いイリアさんっ?」
「……イリア、許さない」
「ああ、私の為に三つ巴なんて~」
「だ、だから、ち、違うって」
 そんな賑やかな桐栖達を見て、チャールズはアレイスターの言っていた期日のことを一時だけ忘れることにした。
「じゃあ、俺の妹ってことにしようか?」
「いっよー」
「いいのっ!?」
「……桐栖兄様、なんか不服そうですね?」
「あっ、いや、そういう意味じゃなくて」
「桐栖……じゃあ、しっかりと説明して」
「ふっふっふ、いい気味だ桐栖っ!」
「えっとですね、いや、その……」
「ああ~もうっ!皆さん私の妹ですわよっ!」
「妹って……俺たちは含まれてないよね?」
「当たり前でしょうっ!男なんていりませんわっ!」
「……ま、マリー、そ、その発言は婦人(レディ)としてどうかと」
「良いんですのっ!」
 こうして、今日も彼らは平和に国際的な緊張感のある歴史を生きる。
 アレイスター・クロウリーが提示した期日が後の世に、世界大戦と呼ばれる大戦争が始じまる月だとは、この時、誰も知らなかったのだから。
 だからこそ、今できる精一杯のことをしながら。
 周りの人と支え合いながら。
 彼らは世界大戦を引き起こさない為に、奔走することになる。
 それが良い結果を生んだかどうかは、構成の歴史学者に委ね、
 彼らは、
 走狗のように、
 激動の時代を
 駆け抜ける。
 
                                                                            終幕