駄文集


今日の情報屋さん《第一話:情報屋のいる場所》

 

 僕はしがない情報屋だ。
 今日もいつもの場所で客が来るのを待っている。
 そう言っている間にほら、お客さんだ。
 今日の客は常連の女性。
 彼女は僕の存在を確認するとまっすぐに僕の座る席へと来る。
 彼女は無言で、僕へと料金を差し出す。
 やはり常連だと作法も分かっていてやり易い。
 僕は料金を受け取ると、自分の脳内(データバンク)に保存された大量の情報から彼女が求めるものをつまみ出して応えてやる。
「今日は三丁目のスーパーが挽肉の特売をしている」
 彼女は僕の言葉を聞いて、満足そうにしている。しかし僕もプロの情報屋だ。こんな新聞チラシ程度の情報で満足してもらっては困る。
「旦那さんは今日、営業の外回りで疲れている。同じスーパーならニラやニンニクが安い……旦那さんにスタミナがつく夕飯をつくってやるんだな」
 僕はそう言って、彼女に特製スタミナハンバーグのレシピを書いて渡してやる。
「ありがとう。助かるわっ!」
 彼女はレシピを握りしめて公園を出て行く。
「ふん。張り合いのない仕事だぜ」
 僕はそう言って、先程自販機で購入した缶コーヒーを飲む。勿論、ブラックだ。
 しかしこの仕事に張り合いがないのは仕方がない事なのだ。なにしろ僕はありとあらゆる情報を網羅している。
 そんな仲間内から『全知(オール・ノゥイング)』と呼ばれている僕に、張り合いのある仕事などあるわけがないのだ。
 だから今日も僕はしがない情報屋として、この街の公園で客を待つ。
 いつかは訪れるかもしれない張り合いのある仕事を期待しながら。