駄文集


今日の情報屋さん《第三話:ライバルが去っていく》

「ふあっはっはっ!」

 今日の公園は五月蝿い。
 その原因は、僕の目の前にマントをその身に纏って高笑いをしている馬鹿一人。
 言ってしまえば彼は同業者なのだが、それは精度に劣る情報だ。
 彼は僕になにかといえば突っかかって来る変態。
 一見するとIT系の専門学校と見間違えてしまいそうな情報学園と言う情報屋育成学校で僕と彼は知り合った。
「ヘンタイさんヘンタイさん、ですます」
「なんだい我がライバルに心を射止められた無垢な少女よ!」
 弟子々と変態が会話を始める。
 彼は変態と呼ばれる事についてなんの違和感も感じていないようだ。
 一体どのような生活をすればそんな非日常的な呼称に慣れられるのだろう。
「ヘンタイさんはお暇なのですますか?」
 変態の見当違いな推測とは違い、的を射た弟子々の疑問に変態が少したじろぐ。
「変態野郎は暇なはずないんだがな」
 僕は変態について知っている情報を弟子々に教えてやる。
 本来なら金をとるところだが、今回は変態を帰らせられるという目的が報酬になるのでいた仕方ない。
「そんな事はない。我が身は如何なる時でも如何なる場所へ赴くことが可能だ!」
 どんな細胞分裂術だよ。
 そんなのが誰にでもできるなら実用書でも書いて印税で暮らしてろ。
「それに我は変態野郎などではない!」
 そんな事を言う変態はしかし、人の話しをベーシックレベルで聞き取らない弟子々に発言を無視される。
「ヘンタイさんはお暇、ということですますか」
 案の定、変態は弟子々のシンプル解釈を訂正しようと言葉を続ける。
 しかし、僕としてもこんな変態が目の前にいると商売の邪魔だ。
 さっさと退場願おう。
 僕は携帯電話をいじり始める。
「無垢な少女よ、我は暇などてはなくてだな……その、我がライバルにな……」
 そんな説明が終わる前にサイレンを鳴らした車がやって来る。
 日本の警察は優秀だ。
「我が仇敵よ! 貴様、もしやサツを呼んだな」
 警察をサツと呼ぶ変態は些か新鮮だが、僕はそんなどうでもいいことに時間を割いている暇はない。
 僕は絶賛営業中なのだから。
「お前の情報入手手段はアシが残りまくりだからな。善意の一般市民が警察に協力するのは当然だろ?」
「貴様っ! 恥はないのか!?」
 そんな概念があることくらい知っている。しかし営業妨害を受けているのに笑顔でいられるわけもないだろう。
 僕はそこの弟子々とは違うんだから。
「それより早くしないと捕まるぞ」
 僕は質問には応えず、公園前に停車したパトカーから警察官が二名出てくるのを指で指して教えてやる。
 それを見た変態は、捨て台詞としても三流である「憶えていろよっ!?」という言葉だけを残して公園の敷地を囲う植木を飛び越えて逃走していく。
 しかも捨て台詞を吐いたおかげで警察官も逃げる彼を追い始めている事にまるで気付いていない。
「つくづく馬鹿だな、あいつは」
「ヘンタイさん、なんの用だったんですますかね?」
「さあな。どうせいつも通りくだらない用事だよ」
 僕はそう言って弟子々に説明する気さえ見せないが、弟子々も弟子々でもう変態に興味はないとでも言うように、僕の靴のサイズを測っている。
「……6号の製作は順調か?」
「はいっ!なのですます!」
 僕の営業妨害は変態だけではなく、僕の周りにいる人間が一丸となって行っているのかもしれない。