駄文集


今日の情報屋さん《第五話:上客の思惑!?》

「……はあ」
 僕は溜息を吐いた。いや吐かされた。
 今日は公園ではない。
 どころか同じ市内ですらない。
 理由は簡単かつ明確。
 上客がここを指定したから。
 以前は沖縄。その前はハワイ。
 いかに『全知』と呼ばれる僕にも次にどこを指定されるか分からない。
 何故ならそれは上客の気分と機嫌で決められるからだ。
 前回も北海道札幌市に向かっている途中に沖縄へ来いと指示された。
「まあ、経費として請求できるから良いんだけどさ」
 1人ごちる。
 しかし経費として請求しなくても、料金としておかしいとしか言えない額を支払ってくれるので、そこまで僕は気にしていない。
 大体、この客で面倒なのは移動を除けば他にはなにもない。
 支払いは良いし、要求される情報も入手が困難なものではない。
 そんなことを思っていると僕の携帯電話に着信がある。
「もしもし」
「それでは事前に指定した情報をよこしなさい」
 そしていつも通りに上客は電話ごしで要求してくる。
 元々電話で済むのであれば僕が移動する必要もないように思えるが、大口の顧客だ。あまり正当なことを言って機嫌を損ねてはならない。
 僕は上客に情報を伝える。
 すると、いつも通り最後に相手は「分かったわ。いつもの口座に振り込んでおきます」と言うはずだったのだが、今日は違った。
「貴方、わたくしが誰かご存知?」
 なにを言っているんだこいつは。
 情報屋がまず調べなくてはならないのは依頼された情報ではなく、依頼主本人だ。
 だから僕はプロとして当然だと言うように肯定する。
「ああ、知っている」
「そうですか、ではわたくしがこのような無茶苦茶な場所ばかり指定してるのは?」
 それは気分だったはず。
 だから僕はそう伝えるが、上客は不正解を笑うことで知らせて来る。
「貴方はわたくしのことを知り、なおまだそうだと思えるのですね。よろしい。次はわたくし自ら貴方のテリトリーまで行って教えて差し上げましょ―」
 そんな言葉を最後に電話が切れた。
 いや、外部から強制的に切断された。
 こんなことをできる奴を僕は1人しか知らない。
『ししょ~ししょ~ですます!』
 案の定、弟子々の声が聞こえてくる。
「なんだ、弟子々か。どうした?」
『お客さんが来たですます!』
 留守番をさせていたが、本当に弟子々が接客をするとは思っていなかったので、この報告に僕は多少驚く。
 今までも基本的に公園にはいるが客の対応をしてこなかったからな。
「ほう。いくらくらいの仕事だ?」
『0円ですます! もう帰っちゃいましたのですます』
 前言撤回。
 こいつは客の対応なんてしていない。
 僕の客を追い払っただけのようだ。
 しかしあの上客はなにを言いたかったんだろう。そんなことを頭の片隅に置いて、僕は弟子々を叱ることにする。
 勿論、あいつが僕の説教を聞いていないのは理解できている。
 だから僕はまだ聞いている序盤で言いたいことを言っておく。
 そして万が一、それは天変地異の予兆とも言えるくらいにあり得ない話だが、弟子々がまだ聞いている可能性を考慮して、僕は先に言った説教の詳細へと移る。
 あ~、僕って今、公園で色んな人に怒っているのを聞かれちゃってるんだろうな~。とか思い始める頃には、僕も切り上げる。
 当然、弟子々からの反応はない。