駄文集


絶望の魔導士

 

 あるところに絶望の魔導士と呼ばれた男がいた。
 彼は神に抗おうと研究を重ねていた。
 しかしその研究を神は赦さなかった。
 それは人間の分をわきまえない、世界を否定する研究だったからだ。
 けれども絶望の魔導士は諦めない。
 もう何十年という年月を費やし、彼にはその研究を成功させる以外の存在価値がなかったからだ。
 自分という存在の証明。
 そんな小さな理由が、世界を否定するほど研究に彼を従事させた。
 しかし如何に絶望の魔導士と周囲に畏怖された彼も、もう今年で死んでしまう。
 それは抗えない寿命という名の神からの天罰だった。
 世界を否定するという冒涜にその命を捧げた、彼に対するプレゼントでもあった。
 故に、彼は生き急ぐ。
 死に向かって、生き急ぐ。
 はやく、はやく。
 常にそんな言葉を口にして、寝る間もなく、食する間もなく、彼は研究に没頭する。
 あと少し。
 何度そう思ったことだろうか。
 そして、何度その感性に裏切られたことだろうか。
 そんな考えすらも出来なくなった頃。
 彼の研究は解答を見出す。
 世界を否定する研究は、文字通り終焉を迎える。
 そして、彼の世界は否定されながら、彼はその果てに辿り着く。
「ごめんなさい」